Mag-log in適当に会話を流し、ミューとふたりきりになりたいと言って、他のホステスを下げさせた。
ミューは、突然先輩たちが「王雅様がミューちゃんとふたりきりになりたいみたいだから、あとは宜しくね」と言い残し、席を去っていったので、ますます挙動不審になっている。
「ども。櫻井王雅だ。よろしくな」
「はい、今日入店したばかりのミューです。どうぞ宜しくお願いします」
深々と頭を下げ、お辞儀をするミュー。さーて。どうやってからかってやろうかな?
「そんな堅苦しい挨拶はいーからさ。飲めよ」
「あっ、あの……でも私、お酒飲めなくて……」
「ハア? 酒が飲めなくてこの商売できるわけないだろ。お前の都合なんか知らねえよ、いいから飲め」
「は、はい……」
ミューは仕方なく自分のグラスに少量のブランデーを垂らし、ウーロン茶を大量に入れてウーロン割りを作っている。
おい、新人。それはどう見てもただのウーロン茶だろ。
「貸せよ」
俺は無理矢理ミューからボトルを取り上げ、コップに半分くらいブランデーを入れてやった。
乾杯を交わして、適当にハナシをする。
ミューのグラスが全然進んでないから飲むように急かすと、しかめっ面したまま、濃いブランデーのウーロン割りを小さな口に流し込む。きっと酒も弱いんだろうな。酔わせてしまったら後が楽だ。
「なあ、ミュー」
俺はわざとミューの肩を抱いて、耳元で囁いた。「お前、処女?」
「えっ?」
見る間に真っ赤になって、大きな目を更に見開く。
ははっ。男にも慣れてないのか。そんなイモ娘が、こんなクラブなんかで働くなよ。
極上の笑みを湛えて俺は言った。「お前、いくらだったらヤらせてくれる? 俺、処女好きなんだ。だって汚くないだろ? 誰ともしてないんだからさ」
処女が好きな理由は、今言った通りだ。
汚くないから。
俺はなんでも一番でないと気がすまない。
女もそうだ。
他の男より後、というのがイヤだ。
初めての女性を俺が征服していく――手に入れているという支配欲に満たされるあの一瞬が好きだ。
ま、後はポイだけど、手切れ金たっぷり包んでやるんだ。別に文句はないだろ。
「なぁ、ミュー、お前はい・く・ら・で・処・女・売・る・の?」
彼女は肩を震わせていた。
羞恥心でいっぱいなんだろう。少しの下ネタで黙ってしまうとは。夜の世界ナメんなよ。
この俺様が直々に洗礼を与えてやろう。「俺みたいなイケメンとできるんだ。最高だろ? だから特別に、お前の処女、買ってやるよ」
ちょっと悪ノリがすぎたかな。あーあ。泣いて辞めるのかな。
「……ざけるな」
「はっ? 聞こえねーよ」
「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」
バシャッ
先ほどまで俺に愛想を振りまいていたミューが、目を吊り上げて怒っている。
しかも俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけたのだ。「おっ、お前――」
バチン!
なにするんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。
「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男に抱かれるなんて、たとえ1億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」
ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、彼女は席を立った。
「すみません、やっぱり私この仕事ムリです。今日で辞めさせて頂きます」
騒ぎを聞きつけてやってきたママに向かって一礼すると、ミューはそのままスタスタと歩き出し、店の外に出て行ってしまった。
なっ……
なんだ、あの女――――!?
俺に水をぶっかけた上に、ビンタまでして行きやがった!
誰にも叩かれた事の無いこの、俺様に向かって!!
「おっ、王雅様っ、誠に申しわけありません!!」
我に返ったママが白いタオルを沢山持って、飛んできた。
「ああっ、王雅様のスーツが……」
俺は震えていた。
驚いたことにそれは怒りにではなく、別のワクワク感から来るものだった。
――あんな女が、いたんだ。
「ママ、今日は帰る。また来るからさ、あのミューってヤツの履歴書くれよ。今日の件はそれでチャラだ。――いいな?」
凄みを効かせるとママは頷いて、すぐにミューの履歴書を持ってきた。
ホントなら個人情報漏洩になるから、店側としてはやりたくない行為だろうけど。
でも、俺は特別だからいいんだ。
断れば、この店が立ち行かなくなることは、ママもわかっているから。
誰も俺には逆らえない。
誰も俺には手出ししない。
その誰もが越えることの出来ない垣根を、ミューは出会ってすぐ、あっさり破って超えてきたんだ。
おもしろい女だよ、ミュー!
絶対お前を探し出して、俺に土下座して謝らせて、お前の処女、奪ってやる!
足腰も立たなくなるくらいにめちゃくちゃにして、捨ててやるから。
覚悟しとけ。
「お前が好きだからだ。キスもしたいし、お前を抱きたい。お前が欲しいだけだ」 ドストレートに言ってやった。回りくどいのは性に合わない。「わっ……私は、そんな不愉快なことしたくない。王雅に抱かれるなんて……」 美羽が伏し目がちに俯いた。――ああ、なるほど。 男女関係になるのが不愉快なのは、恐らく花井のせいだ。 ビジネスとはいえ初めてをあんなジジイに奪われたなんて、屈辱にも程がある。美羽が嫌がるのも無理はない。 美羽と花井が――ああ! 考えるだけで嫌だ!! だから俺の中では無かったことになっている。 あくまでもビジネス――施設を守るために仕方なくやったことだから、ノーカウントだ。 ビジネスに犠牲はつきものだ。 たったひとりで姑息なジジイに立ち向かい、女として一番大切なものを投げ出したんだ。本当にすごいと思う。誰にでもできることじゃない。体張って子供たちを守っているんだ。 俺も危うく花井と同じ卑劣な男になり下がるところだったが、思いとどまって良かったぜ。 心からお前のこと大切にしたいと思うから。 「美羽の考えは俺が変えてやる。つべこべ言わずに俺を好きになれ。全部受け止めて、お前の大切なものもひっくるめて、俺が守ってやるから」「アンタなんか……」美羽はまだ俺を睨んでいる。「怖い顔して睨んでるけど、俺のなにが嫌なんだ? 容姿もいいし、金もあるし、お前の欲しい土地持ちだし、子供たちにも好かれてるし、文句ないだろ。これ以上美羽に合う男はいないと思うけど」「バカじゃないの」「なっ&helli
美羽はトレイに皿、コップ、箸、肉や野菜が切れる専用のハサミ、幼児用のスプーンやフォーク、手拭き、ジュースやお茶の類を乗せたものを素早く用意して、俺に渡してきた。「あの子たちのこと、お願いね」 「いいぜ。任せとけ」 好きな女に頼りにされたら男は嬉しい。トレイを受け取ってガックン達が待つテーブルまで戻った。争奪戦に勝利してゲットした肉や野菜があるから、これを分けて食べさせよう。 「待たせたな」 人数分に分け、皿に盛った肉や野菜を小さく切って子供たちの目の前に置いた。特にガックンの前には、他の子供たちから奪い取った肉をたっぷり置いた。「こんなに食べていいんですか!?」ガックンの目が輝いた。「いいぜ。足りなくなったら、また追加すればいいんだ。たっぷり食べろ」「ありがとうございます! いただきまーす」 ガックンは肉に食らいついた。ちょびっと口元にタレを付けたまま、ガックンスマイルを見せる。「とてもおいしいです!!」「そうだな」 子供たちもスプーンやフォークを使って思い思いに食べている。うまーとかうあー、とか、奇声を発しながら。 子供たちと食べるバーベキューが、こんなにうまいとは思わなかったな。ひとりきりで食べる高級肉よりも、雑多な中で大勢で食べる肉の方が遥かにうまいって、初めて知った。 俺は今まで、つまらない世界で生きていたんだな。金があるから偉そうにするだけで良かったし、思い通りにならないことも無かった。 好きでもない女と肌を重ねても残るものは無く、常に心は満たされなかった。 でも、今は違う。 こんなに心から楽しいって思えるし、嬉しいって思えるんだ。 みんなのおかげなんだな――「お兄
「ほ、ほらっ、こっちは準備できたし、バーベキュー始めるから、アンタも来なさい」 すんでのところで美羽に振りほどかれ、食材がてんこ盛りのところまで引っ張って連れてこられた。 キスはできなかった。「もういい。食いたくねえ」 ブスっとふくれっ面を見せて、プイ、とそっぽを向いた。 俺は、お前が食いたいんだ! この状況で初夜を迎えるのは相当難しいだろうから、キスぐらいさせろって! 「王雅、みんなで食べるとおいしいから、機嫌直してよ」「お前が食わせてくれるなら、食ってやってもいいぜ」「ここはセルフサービスよ」「じゃあ、食わない」「あ、そ。じゃあ勝手になさい」 結局放置されてしまい、野菜や肉を焼き始めた。すると砂糖に群がるアリのように、子供たちはわらわらと集まってきた。火の元へ行かせられない小さい子供を引き受け、用意したテーブルに着席した。 はあ。悲しすぎる。ガッカリ祭りだ。俺様にこの苦しみを味合わせた責任は、絶対に取ってもらうから覚悟しておけよ。 小さい子供をあやしていると、ツンツンとジャケットの裾を引っ張られた。振り向くとガックンが立っている。「お兄さん、これ、食べてください!」 見ると焼けた肉や野菜を持っていた。すぐ食べれるように、焼き肉のタレのようなものがかかっている。「ガックンはもう食ったのか?」「いいえ、まだです」「じゃあ、早く食えよ」「はい。お兄さんに最初に食べてもらおうと思って、取ってきました! どうぞ」 ニッコリ笑顔で、紙皿を差し出してくれた。――うわ、やばい。めちゃ嬉しい。
先ずは宿泊施設とやらに入って、荷物を置いた。予想通りただの広いホールだ。しきりすらない。 電話も無いからチャーターは絶望的。張り切って用意した初夜グッズは全部ボツだ。着の身着のままでヤレと? 上等じゃねえか。こうなりゃもう、成り行き任せだ。 しかし、ここに全員で雑魚寝か……。頭が痛くなる。 手狭でもいいから、せめてもう一部屋あればなぁ。 準備ができるまで子供たちは遊んでおくように伝え、解散させた。 遠くへ行かないよう美羽が注意したが、話半分だった。見渡すと、子供たちはホールに残ったり、外に出て思い思いに遊んでいる。今のところは全員の姿が確認取れている。行方不明になってる子供はいないようだ。 俺は準備係をさせられた。食材を運び込み、あれこれ運搬。重いものはすべて俺様が運んだ。 皿の準備やら火おこしやら、コキ使われた。 美羽は子供たちを見張りながら食材の調理にかかっている。 全般的な運搬や力仕事は俺が担った。普段はインテリ眼鏡(恭一郎)がやっているらしいが、今はいないからぜんぶ俺のところに仕事が入ってくるんだ。 もしかして今日、便利屋代わりに呼ばれたのか? はあぁ。俺、なにやってんだろ。 心の支え――あのウキウキとしたテンションは、一体どこへ行ってしまったのか。楽しみをもぎ取られてしまった今、元気が出ない。文句の一つも口に出すのさえ、もう、なんかしんどい。 俺は、今日この日を迎えるためだけに、必死に頑張ってきたのに……。 この休みを取るのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ! 俺様の苦労を返せ――――っ!! あぁ疲れた。 とりあえず机やら椅子やらの準備も終わっ
「なっ……なんだココは――――っっ!?」 現地に到着して俺は叫んだ。「泊りって……宿泊施設(ホテル)じゃないのかっ!?」 マサキ施設を出発して1時間弱。安く借りたという観光バスにガタゴト揺られて、近所の山奥にやって来た。見晴らしの良い草原の中に、ポツンとひとつ公民館のようなものが建っていた。 因みにこの建物以外、他になにもない。大草原が広がっているだけだ。 更に付け加えるなら携帯の電波は圏外。チャーターも呼べねえ。初夜のための準備グッズなどを届けてもらおうと思っていたのに、もう入手不可。まさか県外とは迂闊だった。 想像以上の山奥だったなんて……。 金払って貸し切りにしようと思っていたけど、最初から貸し切りじゃねえか!!「おい美羽、これ……なんだよ」「えっ?」「ここに泊まるのか?」「そうだけど」「へっ……部屋は!?」 特別ルームとかあるようには見えないが、敢えて聞いてみた。「部屋? みんな一緒よ。ホールひとつしかないもの」美羽はあっさり言ってのけた。「なっ……どういうことだよっ。俺とお前の部屋は!?」「大人だけ別の部屋なんてあるわけないでしょ。みんな一緒に決まってるじゃない。おかしなこと言うのね」「そっ……そんな、お前、子供たちの横で初夜っ……俺はいいけど……お前がマズいだろ。もう少し大事にしないと……」 言っとくけど俺、アッチのテク、かなりある方だと思うんだ。経験豊富だし。 だから多
ボロボロの門扉を開けて中に入った。遊戯室あたりで用意しているだろうと思い、そちらに向かって勝手に入っていった。「よお」「あ、お兄さんだぁ!!」 いち早く俺を見つけたガックンが笑顔を見せて飛びついてきた。「来てくれたんですね!」 ガックンはいつも丁寧だ。俺様に敬語を使ってくれる。他の子供たちとは違う、上品な雰囲気がある。頭が坊ちゃん刈りだから、身も心も坊ちゃんのようだ。「お兄さ~ん!!」 俺の背中に飛びついてきたのは、サトルとリョウだ。「よしっ、まとめて来いっ」 俺は背中に貼り付いてきたふたりを担ぎ上げ、人間飛行機で振り回した。キャーキャー言って喜んでいる。ガックンはサトルやリョウよりも年上で少し背が高いから、彼のみ振り回した。 少し回っただけでなんか疲れてしまった。今、寝不足だから体力が少ない。ここ暫く殆ど寝てないからな。 俺は、今日この日のためだけに頑張ったんだ。あまり体力をムダ使いして本番を迎える前にダウンしたら、今までの努力がお釈迦になる。それだけは避けたい。 人間飛行機を素早く切り上げ、遊戯室に散らばっていた子供たちに集合をかけた。「よし、お泊り保育とやらへもうすぐ出発するから、荷物を先に運ぼうか」「はーい!!」「自分の荷物は自分で持つこと。いいな?」「はーい!!」 自分でも思う。すっかり俺もここの先生だ。 叱ったり教育するのは美羽の仕事だが、子供たちと遊んだり玩具をプレゼントするのは俺だから、子供たちから絶大な信頼を寄せられてる。俺がやってくると子供たちがみんな寄ってくるほどの人気者だ。 フッ、誰にでも俺様は人気があるから罪だな。 でも俺は一番に美